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今回は”それは暖かさのカタチ”を公開します。
これは結構な自信作ですよ。
是非読んでみてください。
できればコメントも残してくれるとうれしいです。
こんなはずじゃなかった。
私はそれをただ見たかっただけなのに・・・。
病室での天井はシミ一つ無く白一色だった。
まるで私の心のようだ。私の心はカラッポ。
本当にこんなはずじゃなかったのに・・・。
私の村はとても小さな村だった。
過疎化が進んだせいか、子供は私を含めて5人程しかいなかったが、私たちはとても中がよかった。
いや、私たちだけでなく村の人々全員が中がよかった。
隣のおばさんに職人の玄さん。村長の山さんに万屋の花さん。みんなが仲がよかった。
ある日私たちは、市内に行ってみたいと言った。
“それ”は市内で見れるらしいが、その日だけしか見る事が出来ないらしかった。
“それ”を私たちは見たことが無く、前に村に帰省した兄ちゃんの話から聞いた“それ”はとてもすごいらしく見たくてたまらなかった。一度でいいから。
たった、一度でいいから見たかった。
だから私たちは計画したのだ。
そして実行した。
市内まで行くお金の無かった私たちは線路の上を歩いて市内まで“それ”を見に行こうとした。
結局、市内とは逆の方向に進み村の人たち全員に私たちは怒られたのだった。
でも、怒られただけじゃなかった。職人の玄さんは“それ”の職人だったらしく、村長さんと話して村で“それ”を見れることになったらしかった。
“それ”を見るには決まってやることがあるらしく、一緒にやることになったのだ。
とっても、とっても嬉しかった。
嬉しくて、嬉しくて、私たちは学校でも遊んでいても“それ”の事で話題が尽きなかった。
“それ”はどんな物だろうか。
決まってやる事も兄ちゃんからの話で楽しいと聞いていたからいてもたってもいられない程だった。
玄さんは“それ”を作るため家からあまり出なくなったが、時折合うたびに楽しみである事をめいいっぱい表した。
玄さん、頑張ってね、と。
ある日私が玄さんの家におすそ分けを持って行った日、玄さんはいなかった。
玄さんが不在だったためか、はたまた、私の欲望のせいか、私は“それ”を探そうとした。
みんなと楽しみにしていた“それ”がどんな物か知りたくて。
目の前にあった黒い玉を動かすと目の前が紅色に染まった。
私は今病院の一室にいる。手と頭には包帯が巻かれているが、あの時何があったのか覚えていない。
だけど、一つだけ分かることは、私はまた“それ”を見る機会を失った事だった。
一生懸命頑張ってくれた玄さん、村長の山さん、一緒に楽しみにしていたみんなと“それ”を見たかったな・・・。
やっとの思いで退院した私は空を見上げた。
あの日とは違い、空は冬眠に入るかのような色で、木には緑色の葉など一つもついていかなった。
どんな顔して会えばいいのか分からない。
駅に向かうまでに冷たい風が私を押す。
早く帰れと言わんばかりに。
電車はゴトンゴトンと無常な音を立てつづける。
あぁ、このままずっと着かなければいいのに。
駅に着いた私は目を開いて驚いた。
駅には“A村第一回夏祭り”と書いてある。
走り出した。
片付け忘れてるよ、と伝えるために村まで急いで。
そしてもしかしたら今日が本当にお祭なのかもしれないと思って。
驚いた・・・。
出店が出ていて、みんなが話しかけてくる。
浴衣を着て楽しそうに、今日が本当に夏祭りだと言いたげに。
フランクフルトにわたがしにたこ焼き、フライドポテト。
始めてみる見慣れた通りはいつになく賑やかで、当たりには色々なにおいが混じっている。
何が何だか分からないままに村長山さんを見つけた。
山さんは私と目が合うなり焼きそばを渡して言った。
「今日は8月の夏祭りだ!この村初めての夏祭りだ!楽しみな!」
私ははっとした。
本当は違う。
こんなに寒い8月なんてないよ。
だって山さん、鼻水でてるよ。
玄さんは村中の人たちと御輿を担いでいる。
半袖で寒くないはずがない。
でも、何でかな。笑いがあふれてる。
こんなに寒いのにみんなが笑ってる。万屋の花さんは私の頭に小さな花を刺してくれた。
村の子供たちと合流して夏祭りを周った。ヨーヨー釣りで取ったヨーヨーを右手に、甘いわたがしは左手に、頭には初めてかぶったお面をつけて。さすがにカキ氷は無かったけど・・・。
ついに“それ”を見る時間になった。
さっきまで賑やかだった村は静まり返っている。私は子供たちに得意げになって教える。
“それ”をみたら「たまやー」って叫ぶんだよって。
私もさっき玄さんに教えてもらったばかりなんだけどね。
バンッと遠くから聞こえて、期待と友に空を見上げる。
みんなで騒いで笑って楽しんで、最後に寒い夜空に打ちあがった“それ”は何よりも暖かだった。
FIN
どうでしたでしょうか?コメントに感想なり批評なり残してくださるとうれしいです。